私たちが暮らす天の川銀河という巨大な存在も、かつては小さな「宇宙の種」から始まりました。しかし、その誕生の瞬間に立ち会った最古の星々がどこに、どのような姿で残されているのかは、天文学における長年の謎でした。
天文学者たちは20年以上もの間、銀河の中心部に広がるガスや塵、そして新しく誕生した星々の喧騒の中に埋もれた「化石」のような古い星々を探し求めてきました。これらの星々は、銀河が形成される前の化学組成や軌道の記憶を留めている「生きた化石」だからです。
そして今、最新の宇宙望遠鏡がもたらした膨大なデータと、高度な人工知能(AI)の融合により、ついにその沈黙が破られました。本記事では、銀河誕生の定説を塗り替えることになった、AIによる4つの衝撃的な発見を紹介します。
銀河の中心に眠る「古き貧しき心臓(Poor Old Heart)」

今回の調査で最も重要な成果は、天の川銀河の「心臓部」といえる場所が特定されたことです。天文学者たちは、銀河の中心部に半径約9,000光年という比較的狭い範囲に密集する、最古の星々の集団を発見しました。
これらの星々は、水素やヘリウム以外の重い元素をほとんど含んでいない「金属欠乏星(metal-poor stars)」です。宇宙の初期には軽い元素しか存在せず、炭素や酸素、カルシウムといった重い元素は、星が一生を終えて超新星爆発を起こすたびに宇宙へ撒き散らされてきました。つまり、「金属が乏しい」ということは、それだけ宇宙の初期に誕生した「非常に古い星」であることを意味します。
研究チームはこの領域を、銀河の原型を留める場所として「古き貧しき心臓(Poor Old Heart)」と名付けました。これは単なる星の集まりではなく、銀河が現在の姿へと成長する前の「プロト銀河(原始銀河)」そのものなのです。
プロト銀河がどのような姿をしていたのか、以前は誰も具体的なイメージを持っていませんでした。 —— ハーバード大学 天体物理学者 Vedant Chandra氏
AIという「デジタル考古学者」がノイズを突破した

この発見を可能にしたのは、機械学習という現代のテクノロジーでした。欧州宇宙機関(ESA)のGaia宇宙望遠鏡が公開した第3次データ(DR3)には約2億個の分光データが含まれていましたが、その解像度は低く、専門家が見ても単なる「波形(wiggles)」やノイズにしか見えない状態でした。
そこで研究チームは、「XGBoost」と呼ばれる機械学習アルゴリズムを導入しました。特筆すべきは、他の高精度な調査による高品質なスペクトルデータを「教師データ」としてAIに学習させた点です。これにより、AIは低解像度のデータの中から、カルシウムやマグネシウムといった特定の元素が発する微細なシグナルを正確に読み取る能力を身につけました。
さらに、このAIは銀河中心部に立ち込める「宇宙の塵やガス」による干渉をも計算に入れて補正を行いました。塵によって歪められた波形の中から真の星の姿を抽出するという、人間の目には不可能な作業を完遂したのです。AIという「デジタル考古学者」がノイズの土砂を払い落としたことで、150万個の候補から約18,000個という貴重な最古の星々が特定されました。
天の川銀河は「共食い」で大きくなったわけではなかった

銀河の形成プロセスについては、長年「内部で星が生まれた(内部成長説)」のか、あるいは「他の銀河を飲み込んで成長した(銀河共食い説)」のかという激しい論争がありました。今回の発見はこの議論に終止符を打つものです。
AIによって特定された古い星々の速度データを分析したところ、それらの星は「小さくタイトな球状の軌道」を描いていることが判明しました。もしこれらの星が外部の銀河から奪われたものであれば、その軌道は銀河の外縁部(ハロー)へと大きく伸びているはずです。
しかし、見つかった星々は銀河の中心部に留まり、コンパクトな球状のプロト銀河を形成していました。この事実は、天の川銀河が他者を犠牲にして大きくなった「共食い」の結果ではなく、自らのガスの中から星を育んだという「内発的な起源」を持つことを証明しています。私たちの銀河は、自らの力で現在の姿へと歩み始めたのです。
「沸騰」する銀河:カオスから秩序ある円盤へ

研究チームは、銀河が現在の平らな円盤状の姿になるまでのダイナミックな変化を、液体が熱せられる過程になぞらえて説明しています。
- 「シマリング(静かに煮える)」期: 誕生から最初の約10億年間、ガスが静かに集まり、金属量の少ない最古の星々(心臓部)が誕生しました。この時期の銀河はまだ形が定まらず、星の軌道もカオスな状態でした。
- 「ボイリング(沸騰)」期: その後の20億〜30億年間で星形成が爆発的に加速しました。次々と超新星爆発が起こり、重い元素を豊富に含んだ新しい星が誕生しました。
この「沸騰」という激動の時代を経て、銀河はやがて冷却され、星々は秩序ある回転を始めました。これこそが、私たちの太陽も属している現在の「薄い円盤状」の銀河構造が完成した瞬間です。
天の川銀河が初めて回転し始める様子を見ているのだ。 —— Vedant Chandra氏

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